野伏せり漂流。

 さて、移動中に隆慶一郎吉原御免状』を読んでおりました。作者の初長編で、「道々の輩」とか、「いくさにん(この作品ではまだ全ひらかな表記)」とか「悪人徳川秀忠」とか、隆ワールドの原点がつまった一篇。「公界・吉原年代記」シリーズ(今命名)の第一作になる予定だったらしい(第二作『かくれさと苦界行』までが世に出ている)。ほんとこの人は亡くなるのが早すぎたなあ。
 ところで主人公・松永誠一郎は二天一流の人で、双刀居合の使い手なんですが、どうやって二刀を同時に抜くんだろう。左手がわに無理があるような気がしてならぬ。
 あと隆ワールドの主人公はたいてい作中戦闘パワーランキングの最上位に位置しており、今回の誠一郎もそうなんですが、この話では「結局男はおなごには勝てない」という作中ルールしばりがあるのと、展開上後半が回想ラッシュになるのであまり鼻に付かなかったな。

ところで、この一節。

 四十八才の二郎三郎は、野武士であることに疲れ切っていた。確かに若者にとってはいい境遇であり、職業である。だが四十八才の男にとっては、辛い稼業だった。この世界には、昇進というものがない。いくら見事ないくさ働きを見せても、報酬が僅かに増えるぐらいで、手柄になることはない。手柄も稼ぎも齢と共に減ってゆく。身体がきかなくなるからである。この齢になって初めて、二郎三郎は武家奉公に憧れた。たとえ僅かでも、黙って入って来る扶持が欲しかった。……

 ・゚・(ノД`;)・゚・
 いや野伏せり稼業ってうすうすそうなんじゃないかと思っていたんですが、こうもはっきり云い切られるとなー。何ての? 西部劇で「悪いインディアン」もひとりの人間なのだと突きつけられた感じ? もう「七人の侍」を普通には観られませぬよ。


フリーター漂流

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