メゾン・ド・ヒミコ

  某サイトさんでお勧めされてたので観てきました。死んだ母親の手術代で借金大王になってしまった不機嫌な娘・沙織のもとに、ある日不思議な青年・春彦が現れる。日給30,000円、週末に老人ホームの世話をするという仕事口を持ってきた彼は、かつてゲイであったが故に家族を捨てた父親の恋人だった。父親への愛憎に揺れつつ沙織は毎週末、ゲイ専用の老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」に通うことになるが――。というお話。

  • 久しぶりの邦画鑑賞。いきなりでなんですが、邦画のキャラってほんと喋らないな。あの科白のあいだの「間」はいったい何事だ。
  • 柴崎コウ演じる沙織の不機嫌オーラがものすごいぞ。物語が半ばを過ぎてもブスくれている。会社の専務にもブスくれ、メゾンで仕事してるときも挨拶もせずにブスくれている。すごいキャラ立てだな。つかそれは置かれている状況がしんどい以前に人間としてどうかと思う。まあその極端さがだんだん変わろうとしていくところがこの映画のキモのひとつなわけですが。
  • しかし前半、沙織はぶすけて黙ってるだけなのに、周りのみながどんどん状況をしゃべってくれるてのは、さすがフィクションの国というか。
  • オダギリジョー演じる春彦の飄々としたたたずまいがものすごく存在感あります。つか画面の背景になっていても存在感あるってどういうことだ。オダジョーさんについては「仮面ライダークウガ*1を放送時にたまにちらっと観てたきりなんですが(当時はあんまり特撮者ではなかった)、いつもああいうかんじなのかな。他の出演作も観てみようかと思いました。
  • ちなみに私は飄々キャラが大好物なので、必然的に点数が甘くなっています。そこらへん割り引いてください。
  • 田中泯演じる卑弥呼も、ものすごい存在感。画面の中ですっくりと立っていて、そこだけ空気が違う。舞踏の人なのだそうで、挙措に意識が入っているのは流石。
  • 「レインボー戦士」……あのダサさではまあ1クール打ち切りがせいぜいでしょうなあ。だって変身ポーズがかっこ悪すぎるよ。……と思ったら、この世界ではなりきりコスチュームまで発売されているらしい! 人気なんだ……。軽くショック。あーでも、ルビイさんくらいの歳の人が考える「子供らしさ」ってのはあーいう感じかもね。まあ実際の子供ら(と大きなお友達)の審美眼はもっと上の気がしますが。
  • さて、メゾンの経営は実は火の車なので、春彦がパトロンの社長と寝て財政支援の約束を取り付けたりしています。ところがその社長が逮捕のうきめに! メゾン・ド・ヒミコの明日はどっちだ!? ……ていうかこの時点ではメゾンの浮沈がストーリーの重要な要素のひとつになると思っていたんだけどな。結局あっさりスルーですかー。
  • バカ中坊をこづきまわしてすごむ春彦さんグッジョブ。昔は近所の大人たちが子供の悪い行ないを見守って暖かく叱ってくれたんだー、てのは懐古趣味のご老体がよく弄する妄言ですが、実際のところはこんな感じに「そゆことされると俺が不快なんだよゴラ」レベルの怒りの発露だったのではないかと思う。なんにせよ無神経なお子様どもにはいい薬です。
  • ドレスを着た山崎さん(衣装持ち)をエスコートして、クラブへ赴くメゾンの面々。しかし、クラブには山崎さんのかつての部下が来ていた。「オカマ野郎」と山崎さんを罵る男に沙織はくってかかるが……。

 いやここのくだりってもう少しストーリーに決着をつけるべきだったんじゃないのかな、と思うのです。少なくとも、山崎さんが元部下に罵倒され、それに沙織が突っかかるけど、うやむやのうちにミュージカルシーンに突入させることはなかったんじゃないかなあ。それでなんとなくのうちに春彦×沙織フラグになってるし! 山崎さんはどうなったんじゃー!

  • この話の最大の謎は、なんでゲイの春彦が沙織とセックスしようと考えたか、だと思うんだけど、これは春彦の通常のコミュニケーションが「欲望(主に性欲?)」をとおしたものだったので、女子の沙織さん相手でも欲望を通したやりかたでコミュニケートできるだろう→じゃあ寝てみよう→失敗、となったのではないかと思います。ううむ、かなりお間抜けな気がしないでもないが。
  • で、脳梗塞で倒れたルビイさんの処遇、父の死などあれこれあって沙織は一旦メゾンを離れますが、春彦は中坊レベルの策を弄して(笑。はじめての女子友達とつながってたかったんだなー。イイネイイネー)、沙織はまたメゾン・ド・ヒミコの面々と出会うのでした。今度は笑いながら。
  • たぶん彼女はまたメゾンに行ったりするんじゃないかな。今度はオーナーの娘とかしがらみ絡みでなく、皆の友人として。
  • で、せっかくの結末に水を差すようで悪いんですが、結局メゾンの金策はどうなったのだ。さもしいようですが、愛も大事ですがゼニも大事ですよー。春彦が食事したって云ってるし、もしかして交渉で細川専務が何とかしてくれることになったの? まあ細川専務の侠気に期待するとしても、塗装屋さんというのはそんなに余裕のあるお仕事なのでしょうか。メゾン・ド・ヒミコの行く末はあんまり安泰というわけでもないのかもしれない……! がっ…がんばれ二代目オーナー、君はまだ若い!!

 筋として納得いかないところもあったけど、最終的な雰囲気はいい話に落ち着いてました。ただ、ゲイについての物語というよりもアジールでの人と人とのつながりを模索した寓話って感じの話なので、アクチュアルな切実味はないです。そこらへんが先日観た「ビューティフル・ボーイ」とは違うところ。あちらは「オカマとしての自分」を見つけ出す過程を語って、「私はこうした、で、あんたがたはどう生きるの?」というような、こちらに問いかけるような問題意識を感じたんだけど、「メゾン・ド・ヒミコ」はもっとゆるゆるまったり〜としたおはなしで、「山のあなたアジールに行って、そこの住人とつながれば癒されるよ」的な話だと感じました(でもつながろうとする努力は大切なものだ)。
 とりあえず、美しいオダジョーさんと田中泯さん観たい人には強くお勧め(笑)。

*1:この作品、パンフレットの経歴に書いてなかったんだけど、黒歴史のかなたに葬られてしまったのでしょうか。出世作だと思うのに。