歴史学者・阿部謹也死す(9月4日)

 享年七十一。
 中学・高校時代に私は世界観先行型のファンタジーを書こうとしていて(当時はTTRPGの世界観構築の方法論から影響を受けた、そういう感じのファンタジーが流行っていたのです。このこころみは無論挫折)、そのときにおこがましくも参考図書のつもりで『ハーメルンの笛吹き男』とか『中世の星の下で』を読んだのが著作との出会いでした。
 時は中世「暗黒時代」、けれども世界は君主や僧院長といった「剣と杖」を持った者たちのみが、彼らのルールで動かしてきたのではない、名もなき市井の人々、放浪の人々、時にはわれわれが思いもよらぬ身分や立場の人々が彼らの掟をもって天下を動き回り、それも世界を駆動してゆくための重要な力だったということに、そしてそんなふうに成り立っている世界の複雑さ、精妙さに私の目を開かせてくれました。そして己の理解が及ばぬものを「暗黒」として切り捨ててしまうことの愚かしさも。
 魂よ安かれ。