SAMURAI7 第二十二話「ひっぱたく!」

 若人の未熟、はやるあまりの短慮、つきつめられた鬱屈は、ついに仲間を少年に捨てさせる。

  • 蛍屋を飛び出すカツシロウ、追うキララ。はれあがったカツシロウの頬。サブタイトルとその後のマサムネたちの会話も含めて、ミスリーディングが巧い。
  • 「あんたは侍の玄人だが、カツの字はてんで素人だ」……結局カツシロウに完全に足りないのは経験で、こればっかりは一朝一夕で身につくものではないからなあ。実践をたくさん行なうということは、そのたびごとの大小の状況の差異を経験して、それをまるめて本質をつかみ取り、自分のデータベースにすることの繰り返しだと思うのですが、カツシロウの実戦経験は神無村防衛戦だけだからな。こればかりは今後の経験値に期待、と云うしかない。でも現在、戦争状態はいまだ継続しており、カツシロウはその中に自らすすんで乗り込んでいったのだから、やっぱり功をあせらず自重すべきだったんじゃないかと思うんだ。
  • つまりカツシロウにとって、神無村防衛戦を経験して、侍は人殺しをその本分とする人種、というところはだんだん飲み込めて来たんだが、まだ英雄志願を捨てきれずにいた、というかんじ?
  • けどカツシロウひとりを責めるのも酷な気はする。大戦経験者は軍隊組織の中に入ったから、どんなにとんがっていても「侍≠英雄」を構造的に経験しなくちゃならなくて、そういうところを巧く乗り越えてこれたのかとも思う。ある意味楽だった世代。カツシロウの世代はそういうこともすべて自分でひきうけにゃならんからしんどいのですが。
  • というわけで、カツシロウは戦さを求めて旅立つようですよ。行きがけにキララ殿を誘ったはいいが、あっさり振られました。いやさすがにあそこまでやられてりゃあ判るよな? と思うんですが、何といってもカツシロウだからなあ……。
  • さて一方マロ様とキュウゾウ殿は癒しの里にたどり着きました。前回ダッシュで夜闇のなかに去ろうとしたキュウゾウ殿ですが、マロ様に歩調を合わせてくれていたようす。義理堅いな!
  • あと、道行く人々はあんな派手な袍を着たおっさんが歩いてるんだから、少しは振り向くがいいと思いました。群衆の中の孤独。
  • キララ殿を慰めるユキノさん。親切な大人のひとだなあ。人生の先輩。
  • 「おや旦那、聞いてらしたんですか」「……いや」……カンベエ殿がキララ殿の気持ちに初めて気付いたのは、この場面、でいいのかな。鈍! しかしおっさまがここで立ち聞きしてなければ、なにかが変わっていたろうか。
  • そうこうしているうちに、蛍屋を襲うウキョウの攻撃隊。しかし彼らはキュウゾウ殿にあっさりと斬り伏せられる。何かこのシーンで、キュウゾウ殿は実は裏切り者で、差配側にコネクションを多く持っている人物なんだよね、と今更ながらに再確認。
  • しかし彼はなんで集合場所は蛍屋だって判ったんだろう。ここらへん説明つかない場面。まあ臭跡探知でしょうかね(しつこいな)。
  • さて天主さまの策謀は進む。タノモ殿は独自の調査で、農民の隠し米を知っていた。たぶんそこらへんを見逃したのも彼独自の判断で、先代天主はそのあたりは野伏せり衆の独断専行にまかせておいてくれたんだろうな。
  • 「侍なら主君に仕えることこそ本分だよねえ?」……あああこれずるいよな。このドグマは機械化したお侍の、もう行き場がないかれらのおそらく唯一のよりどころなのに。だからこそあるじとなる人は濫用したらいけないのに。本当にむごいとりあつかわれようだ。
  • 蛍屋で夕餉中のマロ様。キクチヨの「そんなんじゃあ朝飯食ってるうちに、昼飯時になっちまうだろお?」つうのは「三井家の雨戸開け閉て掛り」みたいだ。屋敷中の雨戸を開け終わったときには夕刻が来ているので、また閉め始めて、それで一日の仕事は仕舞い、という本当か嘘か判らぬ話。まあお金持ちにはお金持ちの苦労があるのですよ。
  • 「まだ仕事が残っている」「そのようだ。待たせるな、すまん」……ところで「そのようだ」てのがカンベエ殿の肯定の返事なんですね。
  • あとこのシーンといい前回の科白といい、キュウゾウ殿がどんどん社会性を身につけていってないか。昔は勤務時間中にご下命もないのにふらっと牢人者を斬りに町場に出て行く(そして引き分け、同僚が尻拭いに(でもエライ目にあって敗退))ようなまるで駄目な大人だったのに、今や自分から周りの事情をちゃんと斟酌できる人に……! SAMURAI7の成長譚担当は実はキクチヨじゃないか、と以前書いたような気がするが、キュウゾウ殿も目に見えて成長しているよ! 偉い! 
  • 天主さまの御幸は野立村へ。善なる主君を演じるウキョウとそれに釣られる侍と農民……と見せかけて、実はどっこいしたたかな農民。ウキョウの農村支配モデルは「鼓腹撃壌」に近いと思うんだけど、帝堯が見たのも、実はこんなかんじの欺瞞情報だったんですかね? 
  • そして朝を迎える蛍屋に、新たな客人がたどり着く。
  • 「ひーふーみーよー」「ごくろーさん!」「いちいちうるさい!」「おにーさん!」……なーごーむー。一話に一回コマキク萌えだ。あとマサムネのおっさんが川で口ゆすいでるのがいいね。あの川生活用水なんだなあと思う。
  • 「桃太郎さん、お土産は?」「こいつぁ失敬、とんと忘れておりました。お詫びに、そのごみ捨てましょう」……この「朝の蛍屋」のシーンは、カップ三者三様のありさまを描いているなあ。コマチキクチヨは友達カップル、ユキノシチロージが大人の円満カップル、サナエリキチがトラブルに直面したカップル。
  • そしてリキチの手にはゴロベエ殿の刀が。

以下ネタバレにつき。

  • 「そっだ、墓ァ建てっぺ! 村に、墓ァ建てっだあ! 天主と、ややの墓だァ。オラも一緒に手さ、合わせっだァ!」……これは本当に驚いた。リキチすげえええ。えらいこといい男じゃないか。設定書に「山ザル」とかあるけど、おまえ今最高に輝いてる! いや実際、リキチが刀抱えて村を出た時点で、もしかしたらリキチは刀をもってこの問題を解決するつもりじゃあるまいかと恐れていたのですよ。まあ平らに云うとサナエさんを斬っちまうってことなんですが。けれど彼はそうしなかった。刀による侍の解決法も、金による商人の解決法も取らず、彼女の心が溶けるまで寄り添う、忍耐強い農民の道をとった。ほんとえらいわ。
  • 「農民の忍耐」については今回、野立村の長老が云ってましたね。
  • さてまた夜が巡って来る。人の想いの力の不可思議さを初めて思い知った島田カンベエ四十●歳の秋の宵(もう冬かな?)。多分シチロージ殿はこういう方面はとっくに思い知ってるかと。でもおっさまの愚痴を聞いてフォローするシチロージ殿はよい古女房の人だ。人生を律する価値観が大転換すると、本当に苦しいものな。カンベエ殿は戦さが終わってからあんまり人と固定した関わりを持ってこなかった(ヒント:プータロー)のか、終戦後五年もたってから思い知ったわけですが(たぶんこの世の中には何か刀が通用しないものがあるらしい……くらいには思ってたとは思うが)。
  • 「カツシロウは、早まったな」……まだお侍の仕事は少なくとも村のアフターケアがあるのにな……という意味だと私は思ったのですがどうでしょ。
  • そして回想。
  • キクチヨはカンベエ殿に半人前扱いの文句云ったりカツシロウにつっこんだりして、非常にバランス感覚があるな。
  • 「生き恥をさらすなど、侍のなすことではない!」……あー、原理主義者発見。ええっと、そういうのは単に「ことを好む」というやつで、決してほめられた事じゃないと思うんだがなー。あとこういう考え方の人は、悪意を持ってコントロールしようとする人に簡単に付け入られてしまうと思う。
  • 「なぜいつも負け戦なのか判りました、先生は仲間を信用していないのです!」……そして云い過ぎたカツシロウはキララ殿に頬を張られ、冒頭に続く、と。
  • 「師事するお方を過った!」……でもカツシロウは握り飯を食べている。ここらへんで、彼の根底の志はまだゆらいでいない、ということを表しているのか。

 お侍衆には亀裂が走り、いっぽうウキョウは着々と地歩を固める。待て次回。